カイロプラクティックと聞くと、腰が痛い時や肩が凝った時に効果的であるという印象をお持ちの方が沢山いらっしゃると思います。確かにイメージとして、腰を捻ってみたり、首をボキッと鳴らしてみたりという印象があるために、そのようなパブリックイメージがあると考えられます。しかし、腰や首が痛くて当院に継続的に来院して頂いた患者様の中で、「胃の調子がよくなった」「最近便秘気味でなくなった」など、体調面での変化を感じる方が大変多くいらっしゃいます。これは腰や首の痛みをお持ちで来院された方にとっては思わぬ副産物であると感じられるかも知れませんが、むしろ体調面での変化こそ、皆様がお持ちの症状の改善に繋がると考えています。
体調面での変化とは、別の言葉で言い換えると疲労の回復であると考えています。疲れ易い、食欲がないなどの体調面の問題は疲労の蓄積によるところが大きいと考えられています。疲労には過度な運動などによる筋肉の疲労や仕事、食事、睡眠不足、ストレスなどの影響による内臓や脳の疲労があります。
これらの疲労の回復には睡眠が最も効果的な回復方法であり、他にも食事による栄養の摂取、適度な水分の摂取、軽い運動が効果的であります。しかし忙しい現代人は睡眠などによって回復できる程度を遥か超えた疲労が蓄積しているために、慢性的な疲労感、体調面の不調、そして腰痛や肩こりと言った骨格症状を抱えてしまいます。
睡眠などで回復できない疲労の蓄積は、脳や自律神経からの神経伝達力の低下と体液循環の低下が考えられます。睡眠時は脳内に蓄積する疲労物質が覚醒時の数倍の速さで排出されますが、それを抑制してしまう脳、自律神経、体液循環の体内環境があることが大きな要因であると思われます。
カイロプラクティックの矯正が内臓に効果的である理由として、脳、自律神経、体液循環の働きを高める手段を持っている事が挙げられます。そこでその検査や矯正方法についてお話致します。
内臓と関連する筋肉の付着部
上記画像の黄色の部分は内臓のどこに問題があるかを検査する際に調べる部分です。解りやすく説明しますと頭蓋骨と首の境目の後頭部全域になります。
内臓は交感神経と副交感神経という自律神経によってコントロールされています。内臓に何かしらの不具合がある時には、この自律神経には異常を知らせる情報が発せられます。この異常を知らせる情報は背骨の中にある脊髄に達すると、その周辺にある運動神経にも異常な情報を伝えるために、異常な情報を受け取った運動神経は背骨の周辺の筋肉を収縮させてしまいます。つまり内臓が原因で身体に歪みが生じます。この歪みは身体中に伝搬されて骨盤は歪み、頭を支える筋肉にもアンバランスが生じます。
この歪みの連鎖は1920年代に研究されて、1950年代には内臓が原因で歪んだ背骨が後頭部のどの部分に影響するかが明らかになってきました。そして内臓が原因で歪みを生じた骨格は、内臓問題が生じている自律神経が影響する骨格を矯正することで制御できることが明らかになってきました。
自律神経が影響する骨格の歪みは、見た目にはごく小さいものですが、身体に与える影響は非常に大きなもので、当院に来院されるほとんどの方は、主訴に対して内臓問題が影響しているケースが非常に多く見られます。
内臓問題とは病気ばかりではなく、疲労により自律神経が混乱するために発生することが多く見られます。体調が優れない、疲れやすい、食欲がないなどの病気とは言えない不調には、肩が凝ったり腰が重かったりと言う骨格的な症状を伴うことが多いと思います。疲労などで内臓の働きが低下してしまうと、身体の歪みが発生してしまうからなのです。
自律神経の検査 自律神経の矯正
上記左側の画像は頭蓋骨と首の境目の筋肉を用いた自律神経の検査になります。右の画像は背骨を用いた自律神経の矯正になります。ここでの矯正は脊髄内部での自律神経の圧力変動が矯正の対象になります。
膵臓の矯正 肝臓の矯正
上記の左画像は膵臓の矯正、右の画像は肝臓の矯正になります。これはぞれぞれの臓器の矯正の一部ですが、主に臓器への圧迫と解放を行うことでポンプ作用が発生し、臓器の血流の改善、機能向上に繋がります。皆様のお腹を触ると、柔らかい方、硬い方、張りのある方、局所的に圧迫に対する痛みや違和感を訴える方など色々な方がいらっしゃいます。
横隔膜の検査 横隔膜の矯正
左の画像は横隔膜の検査で右の画像は矯正になります。この場所は臨床上非常に重要な部分であり、横隔膜は心臓、肺、食道、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、腸などあらゆる臓器に影響を与え、骨格を支える筋肉や胸郭との関わり合いが大きいため、様々な症状の際に矯正が必要になってきます。横隔膜を検査していくと、特定の臓器や骨格と関係する場所に圧迫による痛みや違和感がある場合が多く見られます。
*内臓矯正の臨床例
・30代 女性
大学卒業後に就職してから仕事が忙しく睡眠不足の日が続き、休日はあまり外出せずに体力を温存する生活を続けていたそうですが、2012年5月上旬に起床時から疲労感に襲われ、仕事中も強い疲労感があり早退する日々が続いたそうです。病院で検査をした結果、貧血気味である以外は特に異常はみられなかったそうですが、6月になっても一向に改善しないために当院に来院されているご家族の紹介でいらっしゃいました。
初診時は食欲がなく体重は3キロほど痩せてしまっているとのことでした。頭蓋骨は非常に硬く、横隔膜も全体的に緊張が強く見られます。全身の筋力は全体的に弱化してしまい、活力があまりない状態でした。しかし、翌日から2週間の休暇をもらえているそうなので、疲労を回復させるには良い機会であると思われます。
初回は頭蓋骨、肝臓、仙骨の矯正を行い、非常に緊張の強い頭部の筋膜の緊張を緩めました。矯正後は全身の柔軟性は非常に良くなりましたが、ご本人様に見違えるような変化の実感があまりなかったようなので、次回は様子をみてということになりました。
2日後にご連絡を頂き、比較的食欲が湧き体調も良い状態であるのでしばらく矯正を続けてみることにしました。2回目の時は初回に見られた全身の緊張状態はあまりない状態で維持できていました。この日も頭蓋骨、肝臓を矯正し、横隔膜と頭部の筋膜を緩めることに専念しました。
3回目は4日後に行いました。この日は全身の筋力は向上した状態であり、頭部の筋膜と横隔膜の柔軟性も良好な状態でした。最初は2週間の休暇の予定でしたが、朝の起床時の疲労感が殆どないために、予定より早く休暇を1週間で切り上げて出社することにしたそうです。まとまった睡眠を取れていることも、回復に大きく影響を与えている事は間違いありません。
結果としては、予定より早く出社しましたが、以前のような疲労感に襲われることはなく、順調に仕事を続けることが可能になりました。こちらの患者様は、十分な睡眠による疲労の回復と矯正による脳、自律神経の伝達、内臓の血流の改善により症状が回復したものと考えられます。職場の上司の方に体調の事を相談したところ、社内でもなるべく定時に帰宅する風潮になってきたそうで、職場にも恵まれた状態であるそうです。現在も月1回矯正を行っていますが、ここ2年は身体の質も向上し安定した状態を保っています。
・50代 女性
当院の患者様で現在60代の方で、50代前半にマイコプラズマ肺炎にかかり、その後も数年間咳が止まらずに、再度検査を受けても特に原因は見当たらず、特に夜中の咳に悩まされていた方がいます。当院へは患者様からのご紹介ではなく、近所に引っ越してきたために来院されました。病院での治療以外に何か良い方法はないかと試しに来院されたとのことでした。
検査をしてみると、呼吸器に関する陽性反応はみられませんが消化器系に弱さが目立ち、骨格的には肋骨、肩甲骨、鎖骨に著しい可動性の制限があるために呼吸器との因果関係はあると思われます。また本来後弯しているべきである上部胸椎はどちらかと言えば前弯気味であるのも特徴で、それに伴うと思われる頸椎の前弯の減少がみられました。その影響と法律家という職業のために事務仕事も多く、慢性的な肩こりにも悩まされているそうです。すぐに改善が見込める状態ではないと判断し、話し合いにのすえに、少なくとも半年くらいは矯正を続けることにしました。
最初の日々の矯正は主に消化器系の矯正と骨盤の矯正でした。肋骨、肩甲骨、鎖骨は骨盤が安定してくると可動性は向上し始め、それに伴い胸椎と頸椎の状態も安定傾向になってきました。夜間の咳が落ち着き始めてきたのは2か月後くらいであったと記憶しています。半年後くらいには夜間の咳はなくなり慢性的な咳もほぼ見られなくなりました。
こちらの患者様は現在初診から14年目ですが、現在は咳で悩まされることは全くありません。この患者様は来院当初、帝王切開で3人出産されているためか骨盤の歪みが大きく、また慢性的な消化器の不調からの骨格的なバランスの崩れによる横隔膜の緊張の強さが二次的に呼吸器に影響していたために、呼吸器の耐性の減少に繋がり肺炎や咳を引き起こし、肩こりといった骨格的な症状を引き起こしていたものと考えられます。
呼吸器に影響を与えていた骨盤や消化器系という主要な要素が安定すると、呼吸器に関する自律神経の安定性が確保されたものと考えられます。こちらの患者様は主訴である咳と肩こりは二次的なものでありましたが、骨格の状態と弱点である自律神経は、骨格と様々な臓器に影響を与える代表的な例であると考えられます。
当院で行う骨格矯正の基礎は、1920年代のアメリカ合衆国で、内臓の疾患がある人に対し、背骨に刺激を与えることでその症状を抑制することができたという事実があったことに研究が始まりました。これは背骨への刺激によって、内臓をコントロールする自律神経の働きが促進や抑制されている可能性を示唆しています。その後の研究により、背骨を特定の方向へ動かすと、血圧や心拍数に変化を与える作用があり、自律神経を制御することが可能であることが解りました。
自律神経は恒常性と言われる人間が活動的であるために必要な生命維持の機能や、内臓を制御する神経です。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経はからだを緊張させ、副交感神経はからだをリラックスさせます。この交感神経と副交感神経のバランスは免疫力に影響します。
自律神経は背骨と強い繋がりがあります。自律神経は脳や脊髄から発生し、大まかに言うと首の骨や骨盤は副交感神経の通路であり、背中や腰の骨は交感神経の通路であります。従って、骨盤や背骨のゆがみは血圧や心拍数を始め、内臓の働きに影響を与える理由がここにあり、我々が何かしらの方法により骨格を矯正するときには、自律神経は何かしらの影響を受けています。
現在は我々には明確に自律神経の機能の不具合を分析する方法があり、骨格の矯正により自律神経を制御する方法も持っています。患者様が矯正中に眠ってしまったり、お腹がグルグルなりだす、手足が温かくなるということがよくありますが、これも自律神経の影響であります。自律神経には免疫力を向上させる働きがあることが解明されていますので、骨格の矯正で自律神経が安定し免疫力が向上し体調の維持や病気の予防になるという可能性が大いに考えられます。。