患者様との会話の中で、「先生は患者さんは治せるけど、自分の事を治せるんですか?」と質問をされることが意外と頻繁にあります。正確に言うと、我々の矯正は皆様の治癒力を発動させるスイッチになるに過ぎず、皆様を治すと言ってしまうには語弊があるかと思われますが、自分自身を治癒させる方向性に向かわせることができるかは非常に興味のあるところでした。そこで、カイロプラクターは自分自身を矯正できるのかを検証してみます。
私は慢性的な腰痛、左足の坐骨神経痛、左肩の習慣性脱臼、左手の痺れを以前は常にもっており、自分自身で何とかしてみようと試みたこともありましたが、身近に素晴らしい先生方がいる環境にあるため不調の時はすぐにお世話になってしまいます。お陰様で現在はほとんど慢性的な症状に悩まされることはありませんが、左肩の脱臼だけは20年前から続く程度のひどいもので、くしゃみをしても脱臼する時もあり、所属するPAACでの私が担当させて頂いているセミナーにおいて、セミナー中に脱臼をするという前代未聞の不祥事を起こしたことがあります。
ある冬の月曜日の午前5時頃、ふと目が覚めると首に激痛があり身動きが取れない状況に陥りました。俗に言う寝違えです。5日前に左肩を脱臼していて肩と首のバランスが悪く、冷えも影響したものと思われます。右も左も向けず、寝ているのも苦痛なので起きようと思っても、どうにもこうにも起きることができません。10分程痛む首と格闘しながらやっとの思いで起き上がったのですが、冬の午前5時はとても寒く風呂を沸かして入る事にしました。
湯船に浸かると若干筋肉が緩んできたせいか、多少楽な感じがしましたが、首を動かせないことには変わりません。状況を把握しようと色々と試してみた結果、首を左には少し回せるが右には全く回せない、頷く動作は多少できるが後ろへ反らすことは全くできないという状況でした。また左肩に激痛があり左腕の指先まで痛みが走ります。風呂から上がると起きた時よりも「若干まし」という程度で頭を支えていないと歩くことが苦痛でした。午前9時には患者さんが来るので何とか対策を考えました。結果として、首にカイロを貼ってマフラーをすることで午前中を乗り切ることにしました。
午後1時に昼休みになりました。次の患者さんが来るまでに2時間の猶予があるために、昼ごはんを食べずに矯正をすることにしました。取り敢えず、首の痛みで立っているのが苦痛なために、治療ベッドに横になりましたが、横になるにしても首の痛みでやっとの思いでした。仰向けの状態で色々検査をしてみました。頭を持ち上げることは不可能で、両足を持ち上げることも首に力が入らずにできません。左を向くことは多少できますが、右は無理でした。自分で頭を圧迫すると両足を持ち上げることができるために、我々の分析方法からすると首を矯正するのが優先順位として必要であると考えられます。
さて首のどこを矯正するかを考えてみると、痛みのある左手の指の筋力が著しく低下していたために、この筋力が強くなる頸椎を探すことにしました。結果として頸椎1番を右方向へ矯正するのが良いと思われました。左手の親指で頸椎1番の左の後弓付近に接触して右方向に徐々に動かします。「う〜ん痛い」と思いながら頸椎1番を動かせない右方向に少し動かしては戻し、また少し動かしては戻しと繰り返していくと、痛みはありますが真横まで右を向くことができました。この時点で頭を持ち上げてみると何と持ち上げることができました。
こうなるとモチベーションが上がります。次は頸椎5番を右方向に矯正するのが良さそうです。これも左手の親指で頸椎5番の左の椎弓付近に接触して右方向に徐々に動かしていきます。これは首を若干反らしながら矯正するのが良さそうです。頸椎5番に十分な可動性を感じられると、頭を持ち上げる動作は格段に楽になり、左肩の痛みもだいぶ軽減してきました。
次は頸椎7番か胸椎1番か迷いましたが頸椎7番を選択しました。頸椎7番の左横突起付近を右手の中指で圧迫した方が、頭を持ち上げる動作がスムーズで左肩と左腕の痛みが軽減するためです。検査と同様に右手の中指で頸椎7番の横突起に接触し右方向に動かしていきます。これはどちらかと言うと「首の重みを中指に乗せる」という方法が良さそうでした。この矯正は首と肩が大変心地よく、途中で居眠りをしてしまいました。
頸椎1番5番7番を矯正し起き上がってみると、自分で言うのもなんですがビックリするほど簡単に起き上がれます。首も右に回すことができますし、後ろに反らすのは多少痛みがありますが、仕事をするのには全く支障がなさそうです。念の為午後もマフラーを巻いて仕事をしましたが、経過は良好で夜はジョギングもできました。切羽詰まったために、初めて自分自身を必死で矯正してみましたが上出来でありました。
「カイロプラクターは自分自身を矯正できるのか?」ということですが、結論としては当たり前のことですが、検査ができるところで手が届くところであれば矯正も可能であると思われます。その後も色々試してみましたが、私個人としては頭痛、胃痛、肝臓の不調、腸の問題、足首の捻挫、突き指は矯正可能でした。腰痛と膝の痛みは中々検査が難しく矯正も安定しないために良い結果はあまりでませんでした。
加筆後日談 膝の矯正を自分で行う
カイロプラクターは自分自身を矯正できるのかと言うことで、腰痛と膝の痛みに対する矯正は良い結果があまりでなかったという御報告をしましたが、膝の痛みを自分自身で何とかしなければならない状況に直面しましたので、その経過と結果を御報告します。
私は趣味でジョギングをしています。毎週木曜日にはユニバーサルカイロプラクティックカレッジの講師の仕事のために池袋に行くのですが、この学校の事務局の方もジョギングをされており、住まいが隣駅ということもあり、隔週で池袋までジョギングで行く、所謂「通勤ラン」のお誘いを受けました。隔週であるのは講師の仕事は背広着用でありますが、背広や革靴をリュックに詰めて走るのは気分的に軽快感がないので、荷物を運ぶ週と手ぶらで走る週とを分けたためです。
私の住む西東京市から池袋までは保谷新道、目白通り、明治通りを経由して約16キロですので、10キロレースのトレーニングとしてスタミナをつけるには丁度良い距離であると思います。
ある日走っていますと練馬駅あたりから左膝に違和感を感じ、落合南長崎駅付近では左膝の内側が痛み始め、目白駅付近ではかなり痛みが増してきました。池袋まで何とか走り切ったのですが、講師の仕事が終わる頃には左膝の半月板の内側に強い圧痛がありました。帰宅後に娘の新体操の送迎で自転車に乗ったところ痛みでペダルが踏めず、私の散歩用のミニベロランドナー(フロントシングル)で平地で48×28という軽いギアでないと激痛が発生し、娘(小3)に置いていかれるという始末でした。
翌日も痛みは変わらず歩行は困難であり、翌々週の通勤ランに備えて以前に芳しい結果の出なかった膝の矯正を自ら行うことになりました。
状態としては歩行のどの相においても左膝の半月板の内側を中心に痛みがあり、その痛みは膝の裏まで全体に広がっています。半月板の内側には強い圧痛があり、荷重がかかることで痛みは強くなります。左膝の可動域は痛いながらも右膝と比較して減少してはおらず、出来る範囲での筋力検査も著しく低下しているものはありませんでした。そこで半月板の位置異常を中心に矯正を行うことにしました。
自分で行う膝の矯正の難しさは、「手が十分に届かない」ことに尽きると思います。通常は足首に接触し膝の可動域を検査したり矯正するのですが、その方法が出来ません。そのためアメリカでジョー アンガー先生のセミナーに出席した時の膝の矯正方法を応用することにしました。
矯正は右手の拇指で半月板の内側に接触し、痛みが軽減する方向に半月板を押圧します。その際膝と伸展と屈曲を繰り返し、屈曲の時に大腿骨に対し天井方向へのベクトルの力を加え、半月板のスペースを拡大する方法を取りました。アンガー先生によると、半月板のスペースを広げながら矯正することが重要であるというお話でした。
画像左は膝を伸展させ半月板を押圧し矯正している画像です。画像右は膝を屈曲させ半月板を押圧しながら、大腿骨を持ち上げるような力を天井方向へ向けています。これを繰り返すことで、歩行時の痛みはかなり軽減されました。
痛みがなくなってから走ってみると、様々なことがわかりました。ランニング中に疲労が蓄積していない時は股関節にうまく体重がのることで、足底に力が適切に伝達されて、拇指で地面を蹴るために膝に負担が掛からないようですが、疲労が蓄積してきてフォームが崩れると股関節に体重がうまくのらず、結果として足底の小指側で地面を蹴るために、膝の内側に負荷が掛かるようでした。
その後も股関節と足底を意識しながらランニングを行うと、15キロ程の距離では膝に痛みが出ることはほぼありませんでした。従って私が膝に痛みを発症した原因としては、走る際のフォームの崩れによる二次的なものであると推測されます。しかし、このまま崩れたフォームでランニングを継続すると膝に器質的な問題が発生する可能性が高いと思われます。
これは膝に痛みをお持ちの患者様の矯正にも役に立ちました。膝に変形がなく継続的に何かしらの運動をされている患者様6人に普段の股関節の使い方と足底の体重の掛かり方を伺ったところ、殆どの方が股関節の前方と足底の小指側に体重が掛かり、体重の掛かり具合を意識して頂くことで、1〜3か月の間に膝に感じる痛みが4人の方で軽減するという結果が出ました。この場合、矯正の対象となるのは膝よりも骨盤と股関節、足首が重要であると考えられます。
私は治療家としては自慢できることではないかも知れませんが、幼少期から怪我や身体の不調がとても多かったと思います。頸椎のむち打ち、顎の脱臼、肩の脱臼、左手の痺れ、肋骨のヒビ、左腕の骨折(2回)、拇指の亜脱臼、ぎっくり腰、左足の坐骨神経痛、右大腿の筋肉断裂、左腓腹筋の断裂、左右足首の捻挫、足底筋膜炎など少し思い返しただけでもこれくらい思いつきます。しかしその都度様々な治療を受け、カイロプラクティックの矯正により克服して現在でも運動ができる身体でいられます。
従って皆様の身体の痛みに対しては他人事ではなく良くわかります。これを私のストロングポイントとして皆様の身体のケアと私自身の身体のケアに役立てていければと考えております。